・演 題:「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」のポイント
・講 師:松本万里(文部科学省科学技術・学術政策局 政策課資源室長)
・進 行:監物南美
・参加者:オンライン開催 171名
・文 責:監物南美
2020年12月25日、『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』が文部科学省から公表されました。
近年追補という形で毎年新たな情報の公表はありますが、これらを改めてまとめた、5年に1度の大改訂です。収載食品数は2,478食品、成分項目数は組成成分表を含めると約150にもわたり、拡充されました。また、エネルギーの算出方法の変更も大きな話題になっています。
講演内容の中から、どんな食品が新たに収載されたのか、そしてエネルギーの算出方法に関するポイントを簡単に報告します。
<日本食品標準成分表2020年版(八訂)」のポイント:講演資料(PDF)>
〈新たに収載された食品〉
食品数は2015年版と比べると287食品増え、全2,478食品となった。調理済み流通食品類(調理加工食品類から名称変更)として、配食事業の普及・進展に対応して、一般的なそう菜に標準値を与えたこと、つぶしあんタイプの菓子類や最近のパン類のレシピに基づく食品を新規収載したほか、新たに収載された食品を見ていくと、近年の調査設計を反映した次のようなものであるとの説明があった。
1)新たに食卓に上るようになった食品
・類似する収載食品がないもの:キヌア、えごま、チアシード、コリアンダーなど
・成分が従来品から大きく変化する可能性のあるもの:減塩タイプのみそや塩、濃縮タイプの野菜ジュース、流通漬物(梅干し、白菜の塩漬けなど)など
2)日本の伝統的・特徴的なな食品
・地域伝統食品:あぶらふ、かやきせんべい、ずんだ、すいぜんじな、泡盛、いぶりがっこ、しょっつる、いしるなど
・和食を特徴づける食材:大根おろし、桜でんぶなど
・アイヌの伝統食品:おうばゆりの鱗茎のでん粉、きはだの実など
3)調理後食品の充実(喫食時に近い食材の栄養価を収載)
・素材と調理後のセットでの分析を実施:焼く、ゆでる、電子レンジ調理、炒め物、ソテー、素揚げ、衣付き揚げ物などの成分値を収載
4)分析法の変更に伴う再調査によるもの
・魚介類の脂質抽出法の見直し:にしまあじ、しろさけ、たいせいようさば、さんま、みなみまぐろ、くろあわび、かき、たらばがに、あかいか、みずだこなどで脂質・脂肪酸を新たな方法で再分析
・食物繊維におけるAOAC 2011. 25法の導入:おおむぎ、こむぎ(穀物、マカロニ・スパゲティ)、こめ(精白米めし)、じゃがいも、だいずなどで、低分子量のオリゴ糖等も食物繊維としての測定対象とする新たな分析法で再分析
5)基本的な素材食品の見直しに伴う変更
・米や卵など摂取頻度が高い食材は定期的に再分析を行い成分の変化を確認し、その結果を菓子類等の計算食品に反映した。
〈エネルギーの計算方法を変更〉
歴史的に成分表の炭水化物は、食品100gあたりから水分とたんぱく質、脂質、灰分等を差し引いて算出した数値とされており、実際には多様な性質の成分の集合体となっている。炭水化物の構成要素を直接分析した炭水化物成分表が策定され、エネルギーとして利用性の高いでん粉や単糖類などの成分と、利用性の低い食物繊維や糖アルコールなど各炭水化物成分の組成がわかるようになったのは、じつは成分表2015年版からであり、それ以降、分析食品数を増やしてきている。
今回は、成分表2010年版から成分表本表に参考として収載されてきた、アミノ酸組成によるたんぱく質、脂質のトリアシルグリセロール当量(FAO報告書が推奨するエネルギーの評価方法に用いる成分)に加え、2015年の炭水化物成分表の追加により基盤が整ったので、次の段階として、2020年版では、国際的な状況を鑑み、これらの成分に基づくエネルギーの算出方法への変更を実施した、とのことであった。
具体的には、添付スライド1の式に沿って、アミノ酸組成によるたんぱく質、脂肪酸のトリアシルグリセロール当量、そして炭水化物を消化性の観点から細分化した利用可能炭水化物、糖アルコール、食物繊維の各成分で算出する方法となり、従来の差引き炭水化物等からのエネルギー値の課題に対して、より科学的な確からしさの高いものとなるとのことであった。
従来の算出法によるエネルギーと比べたときには、下記スライド(2および3。注:試算値は昨年の論文公表値で追補2018年までの成分値に基づく)のような、やや下振れ傾向の乖離が生じる。2020年版の審議会報告では、全食品について、従来の方法で算出した場合のエネルギー値との比較表も公表(注:こちらは成分表2020年収載成分値での比較)されている。なお、今回標準成分表としては、精緻化したエネルギー値を採用したが、個別の調査設計や商品企画において、その目的に応じ分析・算出がより簡便な従来の一般成分と標準Atwater係数によるエネルギー値を使用することを否定するものではない、との説明もあった。
今回の変更で、成分表の体系としては、アミノ酸、脂肪酸、利用可能炭水化物等も含めた全150成分が、より密接に関連付けられるようになった。今後は一層、事務局として、組成成分表すなわち脂肪酸成分表やアミノ酸成分表、そして炭水化物成分表等の成分の使い分けに対する情報提供に配慮するとのことであったが、成分表を活用する側でも細分化した各成分の性格の違いなどに対するリテラシーの向上が重要になるだろうとも指摘されていた。
・当日いただいた質問のうち、時間切れでお答えきなかった質問について、講師による回答をここでご紹介します。
【質問】
料理の栄養バランスを示す場合、現状PFC比を用いますが、エネルギー算出式と乖離が出ることが懸念されます。そこは別物と考えてよろしいでしょうか?
【回答】
食事摂取基準2020の報告では、「エネルギー産生栄養素バランス」について、従来のたんぱく質(必要量)、脂質(飽和脂肪酸の上限とω6等の必要量)、炭水化物(たんぱく質・脂質の望ましい摂取で得られるエネルギーの残りを補完する量。食物繊維は考慮しない。)の摂取目標g数に対して4-9-4を乗じた数で望ましい構成比を表していますので、比較する上では、それに準じて料理のPFC 比を算出することが適切と考えます。
【質問】
企業のレシピ開発の際に、栄養価計算を行う場合があります。八訂への移行はいつまでにするものが妥当とのご判断でしょうか?
(食品データベースもまだ七訂のままですので……)
【回答】
数値の妥当性という観点では最新の成分表を利用されることをお勧めします。ただし、食品表示など用途によっては、成分の選択や栄養価計算の方法について別途のルールがある場合がありますので、それらの整合性については御留意頂くようお願いします。