・演 題:『料理と利他』 土井善晴・中島岳志によるZOOM対談から出版まで
・講 師:三島邦弘(ミシマ社代表)
・進 行:江 弘毅
・参加者:オンライン開催59名
・文 責:江 弘毅
**************
2020年12月の発売から半年で6刷の大ヒットを記録した、土井善晴・中島岳志さん共著の『料理と利他』。
この書籍は、版元であるミシマ社が、新型コロナウィルス感染拡大の2020年春に立ち上げた「MSLive!」のZOOM対談からの出版化第1弾でもある。
この『料理と利他』の版元の代表であり、編集担当者である三島邦弘さんに、新型コロナウィルス感染拡大のなか、どのようにして企画立案し、ZOOM対談から書籍出版に至ったかを語っていただいた。
1)「MSLive!」について。その出版第1弾が『料理と利他』
「ちいさな総合出版社」を標榜するミシマ社は、新型コロナウィルス感染拡大が世界的深刻になった2020年5月にオンラインイベント「MSLive!」をスタートした。
「待っている人に、確かな言葉を届ける」というコンセプトの下、藤原辰史さん(京都大学人文科学研究所)の「パンデミックを生きる構え」などが好評。
このイベントは「はじめから出版を目指すもの」だった。これが単なるオンラインイベントと違う点である。
それまでも、「書籍は“著者と編集者が交わす言葉”から生まれるものである」という思いから、読者参加型の「寺子屋ミシマ社」をイベントライブで公開していた。
パンデミック下、立ち上げた「MSLive!」は、多い月には15本実施している。
2)土井善晴×中島岳志のZOOM対談と書籍コンテンツ
「一汁一菜」を提言する料理研究家の土井善晴さん、東京工業大学教授の政治学者・中島岳志さん。この異色の組み合わせは、中島岳志さんが執筆した『コロナ後の世界〜いま、この地点から考える』(筑摩書房)の「一汁一菜のコスモロジー土井善晴論」にもあるように、土井さんの料理論を中島さんのこのところのテーマである「利他」に引きつけて書いていた。
この対談の前には、中島さんが土井さんの著作から雑誌の記事、ネットのインタビューまで、すべてお読みになられていて、この対談に臨まれていた事が大きい。
3)土井×中島の「MSLive!」
全5時間の対談のZOOMの画面共有による動画再生ダイジェストをもとに、三島さんから以下の説明があった。
・対談→書籍においての編集面の工夫は、この本の表紙帯にあるように「対談を完全に再現」すること、「こんなに面白いライブをそのまま書籍にする」ことを心がけた。「勝負どころは、MSLive!をご覧にならなかった人に、MSLive!を伝える体験だ」と思った。
・本文冒頭からもわかるように(見出し「土井さんを通すと『おもしろくなる』現象」)、「そうそうそう(笑)」といった会話の言葉を省略せずに、二人の息づかいを表現してるのがその作り方を物語っている。かといって、ただ単純な「テープ起こし」ではないが。
・寄藤文平さんの装丁についての説明=水墨画においての陰影(筆の中に遠近感が含まれる)のようにデザインした。「人為的、設計主義的にではなく、筆に任せた」。
3)日常の食は民藝ではないだろうか(=結論)
動画再生において、土井さんの「高台の大きな器=何でも載せられる/小さな器=沢山載せると倒れる」の違いの説明からの「日常の家庭料理/ハレの日の食」の理解のアプローチ。
「日常の家庭料理は汎用性のある、いわば民藝の道具である」という大きな主張が「腑に落ちた」(三島さん)。
自然に添う料理→自然に添う、これは表面だけの民藝っぽく、民藝もどき、民藝的なものではない。
***********
講演内容は、どのようにしてMSLive!からはじまったこと、その対談からの編集的アレンジや表現のディテール、寄藤文平さんの装丁までの一連がよくわかった。
すなわち、「みんなが家でご飯を食べるようになった」コロナ下で、このお二人の料理論対談をMSLive!で立ち上げて、見事に書籍『料理と利他』にまとめた編集者・三島邦弘さんの感覚論および身体論(「この本の編集も民藝である」と気づいたとの発言)であった。