・演 題:シャインマスカットなどの新品種の流出問題を考える
・日 時:2022年11月30日(水)19時~20時30分
・講 師:生越由美(東京理科大学経営学研究科技術経営専攻MOT教授)
・進 行:中野栄子
・参加者:会場参加8名、オンライン参加25名
・文 責:中野栄子
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日本は、先進諸国の中では38%と圧倒的に低い食料自給率(カロリーベース)を克服する意味でも、2030年までに農産物の輸出額を5兆円にするとの目標を掲げている。日本の農産物は品質が高く海外でも人気だといい、2022年も1兆円を上回る農産物を輸出した。ところが同年、日本が誇る高級ブドウの「シャインマスカット」が海外に無断流出し、経済的損出が100億円に上ったというニュースが流れてきた。いったいどうしてそんなことが起こったのか。この事件が意味するところは何か。知財研究が専門の東京理科大教授の生越教授に解説してもらった。
「シャインマスカット」は、農林水産省が所管する農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が33年もかけて開発した渾身の栽培品種。新品種は、種苗法に基づいた育成者権や商標法に基づいた商標権を取得しなければ、その権利を守ることができない。日本での育成者権のみ取得し、海外では取得せず、商標権に至っては日本でも海外でも取得していなかった。開発現場では「そんなに価値があるのは知らなかった」と知財への認識が薄く、限られた研究費では知財管理に費やす予算が全く捻出できなかったという。栽培現場の農家も「欲しいといわれ、親切心で種を提供した」と無防備状態で、権利のだだ漏れ状態が明らかとなった。
このほか、「シャインマスカット」だけでなく、イチゴの「紅ほっぺ」など少なくとも36品種が海外に無断流出していると農水省は発表している。おそらく、100億円をはるかに上回る経済的損失があると思われる。海外でも権利を取得していれば、現地の法律にのっとって相手を訴えて、経済的損失を回避することができたのだが、今となってはその術もない。その間に、例えば「シャインマスカット」では、韓国事業者が無断入手した品種を基にさらに改良した新品種として韓国で登録し、第3国へ輸出するなどして莫大な儲けを得ているという。
このような品種の海外への無断流出を防ごうと、2022年4月に種苗法が改正され、新品種については自家採種が禁止された。しかし、自家採種しないので渡す種がないといっても、枝が盗まれたら、容易に流出してしまう。それよりも、「国内外での育成者権と商標権のすみやかな登録を優先すべき」と生越教授は訴える。実際、国などが国内外での育成者権や商標権の取得などを、ノウハウや費用の点で支援するよう、準備が進んでいるという。
新品種の開発は、人類が生き延びていくためには必要不可欠のもの。しかし、長い年月をかけ、費用も人出も多く要する一方で、増殖は極めて容易だ。開発にかけた費用を回収するまもなく簡単に盗まれてしまえば、我が日本にとっての大きな損失である。新たな価値を我々が正当に享受していくためにも、知財への理解を深めていきたいものだ。