「食の安全・安心をどう伝えるか」の報告

・日 時:6月7日(水)18時30分~20時30分
・講 師:山口治子氏(国立医薬品食品衛生研究所)
    :堀口逸子氏(食品安全委員会委員)
    :山崎毅氏(「食の安全と安心を科学する会」理事長/JFJ幹事)
    :小島正美(ファシリテーター/JFJ代表幹事)
・参加者:53名
・まとめ:大久保朱夏

■どうしたら「安心」してもらえるか?
 はじめに小島氏がこのような問題を提起した。①豊洲市場の土壌汚染を例に出し、「安全でも安心できない」という状況になると、科学的な説明では分かってもらえない。なぜ市民は安心できないという気持ちを持つのか? ②GM作物のように価値観の対立が起きた場合に、リスクコミュニケーションは有効なのか? ③最終的には安心してもらうことが重要。どのようにしたら「安心」してもらえるか?

■市民のリスクリテラシーを育むことが最優先課題(山口氏)
 リスクコミュニケーションは単独で語るのではなく、「リスクアセスメント」「リスクマネジメント」「リスクコミュニケーション」の3つの要素を統合して考える、リスクアナリシス(リスク分析)の視点が大事になると述べ、①リスクアナリシスにおけるリスクコミュニケーションの役割。②リスクアナリシスの参加者と、それぞれの立場による情報ニーズの違い。③効果的なリスクコミュニケーションの要件について解説した。
 食の安全については長い間、合意された定義がなかったが、2004年に日本リスク研究学会前会長の新山陽子先生が「リスクが社会的に許容可能な水準以下に保たれている状態」と示し、リスク研究者の間でほぼ合意されている。
 リスク情報は常に不確実である。「正しい情報=確実な情報」ではないということを知っておく必要がある。リスクコミュニケーションが乗り越えていかなくてはならないのは、不確実性のある情報をわかりやすく伝えることだ。いま優先すべきなのは、市民がリスクを理解するための教育・啓発ではないだろうかと述べた。

■リスクコミュニケーションには戦略が必要(堀口氏)
 「食の安全とリスクコミュニケーション」は、2015年5月に発表された「食品の安全に関するリスクコミュニケーションのあり方についての報告書」に基づいて進めてきた。リスクコミュニケーションの目的は「対話・共考・協働」(engagement)の活動であり、説得ではない。この報告書に「安心」という言葉は一切なく、安心してもらうことは、リスクコミュニケーションの目的ではないと強調した。
 認知発達には4段階あり、印刷物やホームページの掲載・説明会などは1段階目。この段階でリスク受容をして行動変容するのは難しいといえる。リスクコミュニケーションが求める「相互作用」は4段階目のレベル。
 「正しい情報」というものはない。のちに新しいことが科学で解明されることもあるので、あくまでも「最新の情報」に過ぎない。追手門学院大学の金川智恵教授の「情報発信者が公正と思われているかどうかが、リスクコミュニケーションの最初のポイントになる」という言葉を紹介した。
 さらに「食品中の放射性物質の検査のあり方に関するリスクコミュニケーション」についてどのような戦略をもって進めてきたか実例を紹介。結果的に検査対象自治体・検査対象品目が見直されてガイドライン改正に至るまでの経緯と、それによってわかったことを述べた。

■消費者の恐怖心や不安を必要以上にあおってはいけない(山崎氏)
 リスクというものを誤認し、過敏になりすぎている消費者はとても多い。食のリスクコミュニケーションの基本は、①食品中ハザートのリスク評価が綿密にできているか。②その健康リスクが当該消費者にとって許容範囲か(安全か)どうかだと考える。本来は、この2点を伝えれば、消費者自身が「安全か否か」判断できるはずなのに、消費者のリスク認知にはバイアスがあることを指摘した。
 科学的にリスクの大・小を判断してもらうためには、消費者の恐怖心や不安を必要以上にあおってはいけない。傾聴と共感こそが非常に重要になると述べた。
 発がんリスクを山の高低で表現したイラストをスライドで見せながら、時にはリスクの大小を毅然とわかりやすい絵で比較することも、不安解消に役立つと説明した。
 未知性因子が多いと不安を助長するので、Q&Aなどで簡潔に内容を伝えることが大事。Answerのはじめに「安全です」「許容範囲です」と明快に書くよう配慮している。
 また、恐怖心をあおるリスク情報を発信している人物、もしくは組織に別の利害目的があることを暴くなどして不安を解消するなど、さまざまな手法を述べた。
 消費者とふだんから仲良くする、好感度アップにつながるCSRも、何か問題が起きたときに、溝を大きくしない予防策として重要といえると述べた。
 最後に山崎氏は「築地/豊洲市場の食の安全にかかわるリスク評価比較表」を紹介した。

会場からの意見や質問も多く、白熱する場面も。積極的な意見交換の場になった。

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