安藤エリザベス氏(JFJ会員)
梅干に出会って、一目惚れ!
私は、医者になるはずでした。ミシガン大学で医者になるために勉強していたんです。ところが4年目になって、苦しんでいる患者さんの世話をするのは私にはできない、向いていないと気付きました。そんな折り、突然日本に行く話が舞いこみ、いきなり日本にやってきました。
日本に来るまでは、料理には関心がありませんでした。ところが、日本に来て、梅干とおかゆを食べたとたん、私は梅干に一目惚れしてしまったのです。それ以来、和食、日本食の魅力に惹かれ、この世界に入りました。柳原一成先生に指示する前は、街のお豆腐屋さんや乾物屋さんが私の先生でした。特に「干瓢」にはおどろきました。
昼間は、三鷹にある国際基督教大学で学び、夜は、柳原先生の教室に通いました。そこで柳原先生のエッセイと出会い、料理は作って食べるものだけれど、素晴らしい日本の文化であると実感しました。先生の本の翻訳をすすめられたのですが、背景にある意味がわからないからと断り、それなら、自分の文章で海外に和食を紹介しようと思いました。これが、フードジャーナリストとしての、初めの一歩でした。でも、奥に入れば入るほど、深い世界だということを実感しています。
試食会が大人気!
「お仕事は?」と、きかれたら、「和食、日本の食文化を海外に紹介する仕事をしています、マル。」と、こたえています。(笑)
今、だいたい3種類の仕事をしています。
- 料理の作り方を教える
- スライドを見せながら講演する
- 雑誌や新聞に記事を書く
講演の場合、日本では、講師の話が終わった後に質問をしますが、海外では常にQアンドAで進められます。一時間の講演だとすると用意する原稿は30分ほどです。自分の言いたいこと、メッセージは二の次にして、相手の言いたいことを上手に受け止めることがポイントです。
おととい、アメリカから帰ってきました。ニューヨーク、ワシントン、ボルティモアで、「日本の年中行事とファストフードとの関係」や「旬を食卓にどう、取り入れているか」「歴史に残る献立」などをテーマに講演してきました。
料理教室に通ってくる外国人に大人気なのが「試食会」です。皆、作るより食べる方が好き。でも、帰国が迫ってくると、皆必死で覚えますよ。特に、人気の食材は、「味噌・海草・大豆製品」国によって、好みの味噌が違うからおもしろい。欧米人は「麦味噌」、東南アジアの人は「白味噌」、オーストラリアの人は「豆味噌」が好きですよ。腱鞘炎にかかってしまい、もう3年経つので、あまり手が使えないため、試食会を多くしているんです。
もうひとつ、ショッピングツアーも、人気があります。特に、魚のマーケットツアーが人気です。荻窪のルミネの地下と、渋谷の東急プラザの地下には、よく行きます。生徒は7人まで。私を含めて外国人が、ワッと8人も押しかけたら、お店の人も迷惑です。でも、このごろでは「やれやれ、また、つれてきたか…。」と半ば、公認されています。
「ニューヨークタイムズ」は、厳しい!
フリージャーナリストと「ニューヨークタイムズ」の契約は、厳しくて皆さん、驚かれると思います。年に6回、こちらから提案します。今年は4回ですが。企画を10項目提案して、3項目採択されればいいほうです。自分のやりたくないものが返ってくることもあります。どんなに実績があっても、おもしろくなければ採用されません。
このほど、世界中のフードジャーナリストに、「秋の味覚」というテーマで記事を募集しました。最初は、松茸!と思ったのですが、イタリアもマシュルームをあげるだろうから、秋刀魚にしました。「秋刀魚は、日本の庶民の味。ビールには秋刀魚が合うが、ちょっと高いお酒には松茸が合う味」こんな内容の記事を書いたら採用されました。これが、私が書いたものです。
たとえば、レストランを紹介する時、日本の場合は、身分を明かして取材をしますが、アメリカでは、身分を明かさないことが条件です。判断力を失ってしまうからですね。何軒も何軒も回って、おすすめの店を選び、記事を書くわけです。そして、本が発売されたら、自分で買って、お詫びの文章とともにお店に送るんですね。だから、お店の人は「だまされた!」という思いで私をみます。これまで、12年間で何百件も回ったのに、御礼は一軒しかありません。
原稿料は、年間、5000ドル(60万円)。経費も同じ位かかるので、ボランティアのようなものです。でも、さまざまな人との出会いがあるし、英文社会と離れて仕事をしているので、お金には代えられません。
「食は、文化の窓口です。」これからも、このテーマにこだわっていきたいと思っています。
(まとめ:村松真貴子)