- テーマ:食の「メディア・バイアス」の何が問題か
- 講師:松永和紀(科学ライター)
- 平成19年9月4日(火)、19:00~20:30
- 於:家の光会館会議室
まとめ:佐藤達夫
第3回勉強会は、『食卓の安全学-「食品報道」のウソを見破る』『踊る「食の安全」-農薬から見える日本の食卓』(いずれも家の光協会発行)『メディア・バイアス-あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)などの著書がある科学ライターの松永和紀(まつながわき)さん。
BSE、O-157、中国産野菜、ミートホープ、白い恋人等々、食の安全・安心を脅かす出来事や事件があとを絶たない。多くの人は、その原因は生産者や輸出国や食品メーカーや流通業者にあると考えている。しかし、松永さんは、それだけではなく、むしろそのこと以上に、メディアのあり方(マスコミの報道の仕方、と言い換えてもよい)こそ、「消費者の食品不安」を増大させる主原因であると分析している。間違った報道が、消費者の誤解をさらに拡大する--その現状を、松永さんは「メディア・バイアス」と表現する。
松永さんは農薬を例にあげて、科学情報(科学者)との接し方、提供の仕方について解説した。
その一例として、あるコンビニチェーンが、子育て中の働く女性をターゲットにした新戦力として、有機・無農薬野菜を使った離乳食や食品添加物を使わない弁当を売り始めたことを紹介する新聞記事を取り上げた。記事中に明言してこそいないが、この記事は明らかに「有機・無農薬野菜や食品添加物不使用のお弁当は健康によい」と言うことが大前提として書かれている。
しかし、松永さんは、日本の法律をきちんと守って生産したものであれば、農薬を使用した野菜よりも有機・無農薬野菜のほうが健康によいということは科学的に証明されてはいない、という。記事の書き手が、このことを確認した上で書くのであればいいのだが、確認をせずに(あるいは何も知らずに)「無農薬は健康にいい」と思いこんで記事を書くのは大きな問題であるという。
松永さんは、他にもいくつかの具体例を挙げて、メディアが発生源となっている「食の危機」が増えていることを指摘した。また、記者や編集者やライターは、学者の発言をそのまま紹介することが多いが、つねに学者が正しい発言をするとは限らないので、その発言の根拠になっている学術論文を調べるなどの努力が必要だという。
これは、相当な時間とエネルギーと判断力を求められる作業である。かなり厳しい要求ではあるが、現代は、それほどに、食生活ジャーナリストが重要な責任を負わされている時代なのだ。
今回の松永さんの勉強会は、自分たちの努力の足りなさと責任の重さを痛感させられた内容であった。