食品ネット販売のニーズはどこにあるか
オイシックス株式会社副社長 福井栄治氏
私たちはインターネットという道具を使って食品販売を始めました。インターネットというのは、「瞬時に」「不特定多数に」「安価で」「大量の」情報を「世界中に」流すことができる、まったく新しい道具です。21世紀の食品流通はインターネットという道具なしでは考えられなくなるでしょう。
この特徴を最大限に生かさなければ、インターネットビジネスは成功しないといえるでしょう。単に、「パソコンを使って商品管理をしさえすればITだ」というわけではありません。
まず、ネットの特質として「ドキュメンタリー性」があります。例えば、昨年に台風で長野のリンゴが多数傷んだという情報が入りました。私たちはその日のうちに、「少し傷はついているけれども、おいしいリンゴが格安の値段で買えます」という情報をお客さんに流しました。これはネット販売でなければ考えられないビジネスです。
ネットビジネスのもう一つの特徴として「ワン to ワン」があります。お客さん一人一人のプライベートな情報を、販売する側が直接に把握しているということです。「Aさんの家では、お父さんは肥満傾向にあり、お母さんは貧血気味、息子は甲子園を目指して野球に夢中」などという情報をもとに、その家庭に適した食材やメニューを提供することも可能です。
私たちは、消費者の中には商品そのものにお金を払うのではなく商品に付随している情報にお金を払う人たちがいるのではないかと考えています。そういう人たちには、とことん情報を開示し、また、その人たちの情報もできるだけたくさん入手し、お客さんにぴったりと合った商品をお届けするつもりです。そのための道具として、インターネットを使いこなしたいと思っています。
料理書に 100字レシピが必要になるわけ
川津幸子(エディター・料理研究家)
家庭料理に欠かせない2つの要素は「簡単」と「おいしい」だと思います。書店へ行くと「簡単でおいしい」を謳った家庭料理書がたくさん並んでいます。でも、作ってみると、「この両方を兼ね備えた料理というのは、そうたくさんはない」ということがよくわかります。
私は「簡単」ということを端的に表す手段として「レシピを100字以内で書く」ということを思いつきました。これは実際にやってみると並大抵のことではありません。ときどき「作り方が100字以内で書いてある」という本も見かけますが、その多くは「材料表の文字数」は100字の中に入っていません。私の場合は「材料表込みで100字以内」ですから、本当に大変です。
さらに、作り方が簡単でありさえすればいいというのではなく、「食べてみておいしくなければ料理ではない」というのが、私の基本的な考えです。はじめのうちは、本当は手間ヒマかかる料理を、簡単に見せかけるために「作る手順を手抜きする」という方法も試してみたのですが、その方法ではおいしい料理ができないことが多かったのです。
最終的には、既存の料理ではなく、「簡単に作れておいしい、まったく新しい料理」を考えなければダメだというところにたどりつきました。そういう料理を思いつくと、本当に楽しくなり、できるだけ多くの人に伝えたくなります。
「料理を一度も作ったことのない人にもおいしくできる料理」をたくさん紹介し、料理好きの若い人をたくさん増やしたい、という思いで、100字レシピを書いています。21世紀には、20世紀までとは違った「スタンダード料理」ができることでしょう。今私たちが作っている「100字レシピ」の中のいくつかが、21世紀の新しいスタンダード料理として残ることが、私たちの願いです。
そんな世界に、ぜひ皆さんも参加してください。お待ちしています。
これからの日本農業の行方
JA東京青壮年組織協議会顧問 高橋金一氏
東京で植木農家をやっている高橋です。学校を卒業してすぐに、父親がやっている農業を手伝いはじめました。そのころ、自分が作った野菜を線路脇で売っていたのですが、あるときお客さんの一人から「お宅で買ったブロッコリーをうちの子供が食べたのよ。ブロッコリーが大嫌いで今まで一度も食べたことがなかった子なのにね。本当においしかったのね、ありがとう」といわれた一言が忘れられなくて、ずっと農業を続けています。
「地産地消」という言葉があります。その土地でできたものをその土地の人が消費する=食べるという運動です。これは、単に安全な野菜を食べられるという観点だけではなく、身の回りに農地を残しておくとか、消費者と生産者が接する機会を増やすという意味からも考えてほしいことです。
農家にとってもっとも大事なのは消費者です。消費者にはもっと農業に関心を持ってもらいたいと思っています。今は、インターネットのホームページを見れば、居ながらにして大量の情報が手に入ります。日本の農業を理解するために「JA」「地産地消」「グリーンツーリズム」「スローフード」などというキーワードを足がかりにして、インターネットで検索してみてください。日本の農業に関するさまざまなことがわかってくるはずです。
マスコミに身を置く人も、政府の予算が(つまり私たちの税金が)どのように使われているかを、しっかり監視してください。私は日本の農家がもっともっと元気になるようなお金の使い方をしてほしいと思っています。
農業は「命」を扱う仕事です。人間が豊かな気持ちで暮らすために欠かせない仕事です。21世紀になっても22世紀になっても、すばらしい環境が残っているように、土地や地球やそこに住む人たちを大切にしていかなければなりません。生産者がそんな誇りを持ち続けられるような農業を続けていきたいと思っています。
食のジャンルにおける新聞記者の役割
朝日新聞社学芸部記者 長澤美津子氏(JFJ会員)
昨年の4月から東京本社の学芸部で「家庭面」を担当しています。このところ、セーフガード、狂牛病、食品表示、デフレによる値引き問題など、世間を騒がす大きな問題が家庭面を賑わしています。これらの問題を、生産から消費まで「串刺し」にしてとり扱えるところが、家庭面の特徴だと感じています。
家庭面というと、読者は50歳代から60歳代の女性ばかり、という印象を持たれていますが、テーマによってはかなり幅広い読者が読んでいることがわかります。例えば、性に関する特集などを掲載すると、10歳代の若い男女から携帯電話を使ったメールが編集部へと入ります。視点を変えればいろいろな読者に読まれるというのも家庭面の特徴だと思います。
家庭面は日常茶飯のことを扱うので、世相を反映しないように思われがちですが、けっしてそんなことはありません。朝日新聞に「料理メモ」という小さな欄があります。今晩のおかずが書かれている実用記事なのですが、この欄でも、長い時間の幅で見てみると、世相を敏感に反映していることがわかります。アジアの文化が見直された時期に合わせてピリ辛料理が増えてきましたし、核家族・少子化が増えるにつれて、料理の材料が4人前から2人前に変わったりしています。私はこれこそ「ニュース」なのだと思います。
今は健康ブームです。家庭面のちょっとした健康記事が読者の健康食品購買意欲をかき立てることも少なくありません。健康にいいという食品を食べ過ぎて肥満し、生活習慣病を悪くしてしまう人も出始めています。ホンの小さな記事でも細心の注意と緻密な取材が欠かせないことを痛感します。
これからは「健康」がとても大きな意味を持つようになると思います。そんな時代だからこそ、常に「家庭面ならでは」という視点を忘れないように記事作りをしたいと思っています。
栄養教諭ってなんだろう
文部科学省青少年局学校健康教育課学校給食調査官 金田雅代氏
日本では「学校給食がテーマになれば、その場にいるすべての人が話に参加できる」といわれています。それほど学校給食の普及率が高いのです。その分、学校給食は日本人の食習慣の形成に大きな影響を与えているといえるし、日本人の健康を大きく左右するといえるでしょう。
昭和30年代、40年代に学校給食を経験した人たちは、現在の学校給食を見る機会があると、ほとんど全員が驚きの声を上げます。「すごくぜいたくな給食を食べてますね」という感想が多いのです。でも、これは不思議ですね。子供たちは、栄養豊かで、おいしくて、日本のすばらしい食文化を反映した給食を食べるべきだと、私は思っています。学校給食にもっと理解を持ってほしいのです。
今、日本では生活習慣病が急増しています。食習慣の乱れが健康を害しているのです。「食」に関する教育は、子供の時にきちんとすべきだと思います。それには学校給食の場がもっともふさわしいでしょう。
学校では、教科として栄養や食習慣などを学び、給食の時間に食事としてそれを体験するというのは、すばらしい教育の方法だと思います。さらに、子供たちがその成果を家庭に持ち帰ることによって、家庭の食事も改善するという波及効果も期待できるのですから、まさに総合的な実践教育だと思います。
その中心的な存在として、学校栄養職員に期待が集まっています。学校栄養職員に教員の役割を担ってもらおうというのが「栄養教諭」です。現場では、まだ必ずしも充分な理解が得られていないこともありますが、21世紀は栄養教諭の出番がますます多くなることは間違いありません。若いかたたちが、大いに参入してくださることを期待します。
料理番組「どっちの料理ショー」の人気の秘密
株式会社ハウフルス・プロデューサー 津田 誠氏
「どっちの料理ショー」は、人間だれでも食事をするときに2つくらいは食べたいものがあって、どっちにしようかをいつも迷っている、というところがベースになってできあがった番組です。食べ物に関する、この基本的な迷いをとことん追求してみよう、というのがスタートでした。
そのためには、司会者が食べ物や食材に関して長々とウンチクを語らないこと。そして、なんだかわからないけど、ゲストがだんだん洗脳されてきて、最後にはどっちも食べたくなる、というような構成にしました。ごくシンプルなアイディアなのですが、それだけに、登場する素材には徹底的にこだわっています。
外部のリサーチャーを使わずに、番組関係者が独自の取材網を駆使して「特選素材」を探してきます。特選素材を探していくうちにわかったことが「日本にはとてつもなくすばらしい食材がある」ということです。漁師さんであれ、お百姓さんであれ、それこそ命をかけておいしいものを作っている人たちが、全国各地にいることを、番組制作を通じて、はじめて知りました。
「どっちの料理ショー」のもう一つの楽しみは「勝ち負け」です。これも、人間のごくベーシックな楽しみです。テレビ番組とはいえ、真剣勝負ですから、スタッフはもちろん、参加するゲストまで、全員が熱くなります。その熱気が見ている人にも伝わるのだと思います。
じつは、番組関係者として一番多く受けるのが「負けたゲストは本当に何も食べられないの?」と「負けたほうの料理はどうするの?」という質問です。「負けたゲストは本当に空きっ腹で帰ってもらい、負けたほうの料理や食材はすべてスタッフの口に入ります」というのがお答えです。
(まとめ:佐藤達夫)