適切に食べ物を摂るために必要なちからとは? 進む「フードリテラシー」の研究 【2024年度第2回勉強会】

・演 題:適切に食べ物を摂るために必要なちからとは?進む「フードリテラシー」の研究
・日 時:2024年6月19日(水)19時~20時30分
・講 師:村上健太郎/東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野 教授
・進 行:畑中三応子
・参加者:会場参加15名、オンライン参加76名
・文 責:畑中三応子
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 元来は読み書き能力を意味する「リテラシー」だが、現在ではある分野に関する知識やそれを活用する能力のことを指すことが多くなった。それでは「フードリテラシー」とは何か? 栄養疫学、行動栄養学を研究する村上健太郎さんにお話いただいた。

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 どんな食事をすれば病気になりづらく、健康でいられるかは分かってきたが、だからといって、人々の食べ方がよくなったわけではない。
 世界のすべての死亡のうち、22%は食事が原因。食事の影響は、喫煙を含む他のどの因子より大きい。不健康な食事は、慢性疾患の重大な危険因子になっている。

 どうしたら、人々の食べ方をよい方向に向かわせられるかを明らかにする必要がある。そうした流れから出てきたのが「フードリテラシー」、この10年ほどで現れた新しい概念だ。

 フードリテラシーは、単なる栄養の知識よりもっとずっと広く、健康的に食べることができる能力の総称。さまざまな定義が存在するが、もっとも参照されるのはVidgenとGallegos(2014)によって作成された「食品に関するニーズを満たし、摂取量を決定するに際して、計画・管理・選択・準備・摂取するために必要な、相互に関連した知識・技術・行動の集まり」とする定義である。

 最近ではこのような個人レベルの視点に加え、食の文化的価値、地域社会的価値、社会的価値、政治的価値、環境的価値を包括的に考慮して、より広い意味で考えようという試みがなされている。

 日本人は健康的な食べ方をしていると思われているが、実はパーフェクトとはほど遠い。ほとんどの人が食塩を摂りすぎ、若い人の方が年配者より好ましくない食事をしている。また、その摂取量が多いほど食事の質が低くなり、慢性疾患が多くなるとされる「超加工食品」を、摂取エネルギーの3、4割摂り、若者と喫煙者ほど多い。

 日本語で書かれた食事と栄養に関するオンライン情報1703個を分析すると、最も多かったコンテンツは、食べ物・飲み物22.9%。次いで体重管理21.5%、健康効果15.3%、食13.8%だった。発信源は、1位がマスメディアとIT企業(27.8%)、2位が食品企業(14.5%)、その他(13.9%)、医療機関(12.6%)と続いた。

 心配なのは、1703個のうち編者または著者の存在を明示しているものは46.4%と半数以下で、半数以上のコンテンツが広告を含み、引用文献があるコンテンツは40%にとどまること。これで情報と呼んでいいのかという状態である。

 また、人々が栄養や食事についての情報を入手するときに使う情報源は、1位テレビ(32.9%)、2位ウェブ倹素(22.2%)、3位特定のウェブサイト(16.6%)、4位新聞(15.0%)、本や雑誌(11.6%)と、テレビが圧倒的に多い。ところが、フードリテラシーが高い人は厚生労働省など特定のウェブサイト、本や雑誌から情報を得るのに対し、低い人はテレビで得ているのである。

 フードリテラシーの研究は始まったばかりで、定義も測定法もまだ定まっていない。だが、フードリテラシーが食事の質と強く関係していることが分かっている。間違った情報が飛び交う現代社会において、フードリテラシーが高いことは食事の質を高めてよりよく生きるために大事な資質。そして、フードリテラシーは性や年齢などとは違って修正可能な因子なので、社会全体でフードリテラシーを高める教育や政策が重要だと考える。

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