日時:2024年11月2日(土)・3日(日)
講師:戸井口 裕貴/信州富士見高原ファーム長
藤木徳彦・鮎澤 廉/日本ジビエ振興協会
宮坂勝彦/宮坂醸造
斎藤由馬/エイトピークス
担当:畑中三応子・小山伸二
文責:畑中三応子
久しぶりの、言い出しっぺで担当になった畑中にとってはじめての泊まりがけ、東京を離れての勉強会を長野県の諏訪・茅野エリアで開催しました。
初日は上諏訪を歩き、街おこしの現場を見学する予定でしたが、あいにくの雨。しかも午後は豪雨となり、参加者8人、苦行のごとくずぶ濡れになりながらも小山さんの先導で頑張って歩き、逆によい思い出になりました。
宮坂醸造のセミナー室でのレクチャーランチは、上諏訪で1662年創業、「真澄」の蔵元の宮坂勝彦さん、2018年から地ビール醸造を手がけている斎藤由馬さんに、八ヶ岳山麓で酒造りをする意味や意義、諏訪の風土や歴史などを太古に遡って詳しく、熱く語っていただきました。知らないこと、驚くことばかりで学びの多いレクチャーでした。
宿泊は、築100年を超える古い旅館を再生させた下諏訪のゲストハウス。部屋は2段ベッドのドミトリー形式で山小屋風。学生に戻った気分になれました。宿には風呂がないかわり、周囲には280円で入れる公衆温泉浴場がたくさんあり、食事前につかりに行って雨で冷えた体を温めました。
「神楽」での夕食は、土産土法の11皿で構成された郷土料理コース。この夏の酷暑でキノコが豊作だったそうで、クロカワ、コウタケ、ショウゲンジ、ジコボウ(ヌメリイグチ)などの珍しい天然キノコを汁、炊き込みご飯、和え物などでたくさん食べることができました。
とくに印象的だったのが、昼に宮坂さんから聞いていた「塩イカ」の酒粕あえ。信州は海から遠いため、ゆでたイカの胴体を容器として塩を詰めて「塩の道」を通って日本海側から運び、イカ自体も塩抜きをして貴重な海産物として賞味した歴史があるそうです。
「神楽」での夕食後、主人の武居さんと記念写真。素晴らしい料理でした。
2日目は諏訪大社下社本宮見学からスタート。この地域には八ヶ岳中心に生息する哺乳動物を食べる食文化が保たれています。諏訪大社では毎年4月15日にシカの頭を神様に捧げる御頭祭(おんとうさい)が催され、獣肉を食べてもけがれにならないと許可する免罪符の鹿食免(かじきめん)を今も発行しています。
次の信州富士見高原ファームでは、シカの解体処理を見学しました。11月は狩猟シーズンの真っ盛りなので、その日に捕獲したシカが届く予定でしたが、前日の豪雨でシカが川を渡れず捕獲はゼロ。ストックしてあった38㎏のメスで見せていただきました。日にちが経っているのでかなり臭いが出ていると予告されていましたが、それほど臭くなく、肉はつやつやと鮮やかな赤色。茅野ではスーパーでシカの背ロースやもも肉が普通に買えるそうです。
センター長・戸井口裕貴さんは「何にでも答えますから、何でも聞いてください」と、熱心に説明してくださり、最初は動物の死体にしか見えなかったシカが、安心・安全・美味な食肉になるまでのプロセスを細かく知ることができました。1回切るごとに包丁を熱湯で消毒しながら、すべてが本当に丁寧な手仕事でした。
戸井口裕貴さんによるレクチャー
最後が、蓼科高原の「エスポワール」でのレクチャーランチ。シカの骨と肉でとったコンソメ、シカ肉の生春巻き・シカとイノシシのパスティーヤ(薄い皮で包んだモロッコ風の料理)・イノシシのパン粉焼き・シカのローストの盛り合わせ、デザートは栗のモンブランとシカトリュフショコラというジビエ尽くしの三皿コースでした。
ランチ後は、日本ジビエ振興協会事務局長・鮎澤廉さんと、代表理事・藤木徳彦さんによるレクチャー。鮎澤さんの、山の恵みに感謝しながら平等に分配したという「マタギ勘定」の話、藤木さんの「1頭1頭に向き合って、どんな調理にすればおいしいか、ちゃんと考える調理教育が料理人には必要」という意見が印象に残りました。
ジビエの勉強会はこれまで東京で2度開催しましたが、やはり現場で見て聞くのは違いました。2日目は初日とうってかわっての晴天で紅葉も楽しめ、気持ちのよい1日でした。