「生産者から見る放射能汚染」の報告

・講師:久松達央氏(茨城県土浦市、農業経営者)
・平成23年6月30日(木)、18:30~20:00
・於:東京ウイメンズプラザ会議室
・参加者: 32名
・まとめ:木村滋子

 第2回勉強会は、前回に続き「食品の放射能汚染」の問題をテーマに学んだ。今回は、茨城県土浦市で有機農業を営んで12年という久松達央氏を講師に、生産者の立場からこの問題をどのように捉え、どのような行動をとったかについて伺った。久松氏の非常に力強い前向きなコメントは、参加者一人ひとりが、今一度この問題について、それぞれの立ち場から何を思い、何ができるかについて見つめ直すための問題提起となった。

■ 有機農業は「安全」な野菜を消費者に提供するためではない?!

 久松氏は、まず、放射能汚染の問題について話す前に「脱サラから新規就農」「有機農法」「個人宅配」は、決して一般的な農業者ではなく異端児ともいえる立場である。あくまでも、今回の事故があった時に何が起こり、どう対処したかについての一農業者の意見と捉えてほしいと語った。
「有機農業」については、生き物の仕組みを生かす農業であり、「無農薬」「無化学肥料」はその手段にすぎない。「無農薬」そのものに価値があるわけではなく、有機農業はいい物を作るための手段であり、「安全な野菜」ではなく「健康な野菜」を作るためのものだという。
 久松氏の作る野菜は、8割が個人宅配、2割は直売所やレストラン等へ直接販売されている。

■久松農園の震災と放射能汚染の流れ

3月11日、東日本大震災により自宅のブロック塀と瓦数枚が壊れ、停電、断水などがあった。電気は翌12日深夜には復旧したが、電話は携帯・固定ともつながりにくく、断水は約一週間続いた。宅配便は翌日には復旧したが翌日配達は保証されず、ガソリン不足は3月末まで続き、震災後の一週間はアタフタしている間に過ぎていった。
 3月17日、放射能汚染の問題に対して、厚生労働省は食品衛生法による暫定基準値を設定。19日、ホウレンソウとカキナから基準値を超える放射能が検出されたことを受け、茨城県はホウレンソウ、カキナの出荷自粛要請を発表した。21日、政府は原子力災害対策特別措置法(原災法)に基づき出荷制限を要請。この問題は連日大きく報道された。
 放射能に関する知識はほとんどなかった。インターネットを使って自分なりに調べ、仲間と連日議論を交わした。「放射能とは」「健康への影響は」「汚染された野菜は本当に食べられないのか」。基準値が相当安全側に設定されていることがわかった。しかし、それでも、「風評とは思いつつ食するのはためらってしまう」「しばらく様子をみたい」とキャンセルが相次ぎ、3割の顧客を失った。
 有機農業・産直は「諸刃の剣」のようでもある。安全を気にする意識の高い人ほど、リスクにも敏感で回避的である。「安全」を売りにしてきたのなら、「安全に乗っかって商売してきたしっぺ返し」とあきらめもつくかもしれない。しかし、「安全な物」ではなく「いい物」を作ってきた。放射能に負けてしまったのだ。悔しかった。端境期ということもあり、数少ない商品であった「ちぢみほうれん草」や「宮内菜」を売ることができなかった。本当に「いい物」を作ってきたのに食べてもらえなかった。

■3つの論点

☆ 久松氏は、今回の論点として次の3つを挙げた。

  • 農業者に合理的な判断が出来る材料はあったか?
    農協系統以外の生産者に対しては、「検査結果」や「出荷自粛要請」等について、行政から直接通知されることは一切なかった。出荷の自粛はあくまでも自己の判断によるものであった。しかも、その判断のための情報は報道のみという状況であった。
  • 出荷制限の措置の正当性は?実効性は担保されたか?
    そもそも「出荷制限」に法的な根拠はあるのか?実効性は?メディア
    は、法的な根拠まで確認することなく「出荷規制」「出荷禁止」「出荷停止」など、強い表現でセンセーショナルに連日報道した。結果として消費者の不安を煽り、多くの農家に経済的損害を与えた当事者が、法的な背景を全く調べていない、というのはあまりにもお粗末ではないか。
  • 今後、農業者は「汚染」にどう対処すべきか?
    すでに空気中や土壌に分散してしまった放射能から逃げることは出来ない。これは、相手が放射能でも安い輸入農作物でも同じであるが、今後は「代替の利かない農作物」へのシフトが必須である。

 質疑応答では、生産者以外の様々な立場からの活発な議論も交わされたが、食の「安全」と「安心」については、今回に限らず必ず論点の一つとなる話題である。「放射能汚染の暫定基準値は充分安全よりの数値であり、それでも食べたくないと言うのは安心できないという気持ちの問題」とする意見もあるが、放射能汚染に関しては、農薬の安全性のようにきちんとした科学的根拠に基づくデータの蓄積はない。現時点では、安全が担保されるということは非常に難しいといえる。これに対して、久松氏は、「ゾーニング(区分するの意)」という言葉を使い、「ある一定のルールを決めて、それ以上については自己判断とすべき」との意見であった。つまり、ある特性を帯びた商品(例えば放射能汚染されたもの)について、その物の流通自体を全面ストップするのではなく、それを買いたくない消費者がそれとは知らずにアクセスしてしまうことを避ければよい、そのためには、正しい判断が出来るに足る情報の提供が重要である。

★ なお、久松氏の意見については、前回の第一回勉強会講師である松永氏が立ち立ち上げた消費者団体Foocomnetの運営する『Foocom』というサイトの中でも公開されているので、ぜひご一読頂きたい。(http://www.foocom.net/)

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