第23回公開シンポジウム「非常食から災害食へ」の報告

日時: 2014年2月22日(土)13:30~16:30
会場: 東京ウィメンズプラザホール 
参加者: 141名
基調講演:別府 茂  日本災害食学会理事 新潟大学大学院客員教授
           ホリカフーズ株式会社取締役兼執行役員
パネリスト:沼 俊一 板橋区危機管理室防災計画推進課
      平川あずさ 食生活ジャーナリストの会副代表幹事
コーディネーター: 佐藤達夫 食生活ジャーナリストの会代表幹事
総合司会: 村松真貴子 食生活ジャーナリストの会会員

【基調講演】(講演要旨抜粋)

  • 別府 茂「非常食から災害食へ」
     “非常食”というと“災害に備えて賞味期間の長いものを常備する”と思いがちだが、これは1995年の阪神・淡路大震災の時点すでに役に立たなかった概念だ。これからの災害食は、備蓄することが目的ではなく、一人一人に対する必要性やどういった状況で食べるのかを踏まえるべきである。
     災害時には、被災者を「災害対応従事者」「住民」「要援護者」に区分し、それぞれの活動・生活に適した食品を選ぶ必要がある。何食分準備しておけばよいのか? その時、自分はどういう仕事、活動をしているのか?――人それぞれ違うだろう。また、非常食を選ぶ際、賞味期間の長さを条件にすると、食べられる食品の種類がかなり限定され、ふだん食べている食品との品質差が大きくなる。優先すべきは「災害時に役に立つこと」だ。
     災害に立ち向かうための備えをするためには、「非常食だから普段は役に立たない」という生活ではなく、「非常食を使い回す」という考えが必要だ。そのために、試食訓練を勧めたい。災害時に食べようと思っているもの、食べたいものを、災害時と同じ方法で作って食べてみる。お湯は、ガスは、鍋は、どうなっているのかも含めて、災害時の想定下で作って食べて、本当にこれでいいのかを確認する必要がある。
     災害食は、“ただあればいい”というものではなく、健康面などの2次災害による被害を未然に防ぐこと」「救援活動の支援などにも備えること」が目的となる。農水省のガイドでは最低でも3日分、できれば1週間くらいの備蓄を考えておかないとならないという。私たち一人一人がそれぞれ必要性や状況にあった備えについて、今一度考え直したい。

【パネルディスカッション】(発表要旨抜粋)

  • 平川あずさ「被災地の食事の現状から災害食を考える」
     管理栄養士である平川氏は、宮城県を中心とした「3・11」被災地の取材をもとに、発生直後から約1カ月の宮城県内の避難者数と政府調達の主食数の推移、ライフラインの復旧と病院給食の関係、被災後1ヵ月間の病院給食の栄養、避難所の食料と被災者が求めた食料の差などを解説。
     そのうえで、「生きる延びるために最低限必要なものは、水とエネルギー。これに、たまに温かい少しのおかずがあれば、1カ月間は何とかなることがわかった」と結論づけた。「人は飢餓そのものではなく、絶望状態の飢餓感によって命を落とす」という言葉を用いて、震災時は不便さに苦しむのではなく、日常生活との「落差」によって辛さを感じることを示した。このため、普段から「あえて不便な生活をする」トレーニングを勧めた。

  • 沼 俊一「災害時に食べるかもしれません…備蓄食料」
     東京都板橋区の危機管理室防災計画課で備蓄に関する業務を担当している沼氏は、避難所ではどういう考え方で食料を備蓄しているのか、災害時に提供される食事はどのようなものか、などについて話した。
     行政が設置する避難所では、必要最小限の「食」「住」の物資を備蓄している。食については、阪神・淡路大震災以前に、防災用の備蓄食料の中心だった乾パンの代わりに、5年間保存可能なクラッカーを備蓄する。また、災害時の避難所では、50食用のアルファ化米を個別の容器に分けて豚汁とセットで提供すると想定している。
     一方で、「自治体の備蓄には限界がある。避難所には、想定避難者数7万人×3日分の食料しか備蓄していないし、炭水化物が中心。自助、共助、公助の協力が欠かせない」と話した。このため、自治体や町会などの地域コミュニティに対して、避難所の運営や町会独自の備蓄などを依頼する。沼氏は「過去の災害を教訓にして、区民からの要望や声を聞きながら、効果ある備蓄につなげていきたい」と結んだ。
     
     パネラーの発表に続き、食生活ジャーナリストの会代表幹事の佐藤達夫氏のコーディネートのもと、会場の参加者からの質問や意見を交えたパネルディスカッションを行った。

【幹事会から】

 震災から3年が過ぎようとする時期に開催したシンポジウム「非常食から災害食へ」では、基調講演やパネリストの発表を通じて、これまでの「備え」では災害関連死を防げないことが浮き彫りとなりました。とりわけ約1200万人もの人口を抱える大都市・東京において、行政の災害対策や備蓄には限界があり、私たち一人ひとりが近い将来必ず来る災害に立ち向かうために、普段から行動することが不可欠だと痛感しました。
 「災害食を食べ慣れる」「備蓄食料を使い回す」など、これまでの「非常食」のイメージをガラリと変えるキーワードを中心に、会場との意見交換も活発に行うことができました。自らの備えのみならず、マンション居住者や地縁の薄い若年世代を巻き込んだ避難所のあり方、自然災害以外の発災時の対応など、幅広い疑問や意見が相次ぎ、今回のテーマを深く掘り下げることに成功したと思います。
 このシンポジウムが、災害に対する実効性のある備えの一助になることを願ってやみません。ご登壇いただいた皆様、ご参加いただいた皆様、ご協賛いただいた皆様に心から感謝申し上げます。
 
※第23回JFJ公開シンポジウムの詳細を『報告書』(1部1,000円)にまとめました。
希望者は事務局まで。

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