「築地 その迷宮を記録する」の報告

・講 師:長沢 美津子氏(朝日新聞文化くらし報道部)(JFJ会員)
     手島 麻依子氏(松竹株式会社 メディア事業部) 
・日 時:2016年7月8日(金) 18:30~20:00
・会 場:東京ウィメンズプラザ 第一会議室
・参加者:36名
・まとめ:近藤卓志

■勉強会のねらい

 日本橋魚河岸が関東大震災で被災し、新たな東京の台所として誕生した築地市場は、世界一のフィッシュマーケットと言われ、寿司をはじめとする日本の魚食文化を支えてきた。しかし、紆余曲折があったものの今年11月、豊洲市場へと移転する。つまり、およそ80年という長い年月、都民の台所として多くの機能を有し、数々のドラマも産み出してきた築地市場がその長い歴史を閉じることになる。そこで、中央区築地町内に本拠地を置く2つのメディアが「今の築地」をそれぞれの視点で記録することになった。それが、朝日新聞デジタルのwebサイト「築地 時代の台所」と、松竹株式会社のドキュメンタリー映画「TSUKIJI WONDERLAND」。勉強会では、朝日新聞文化くらし報道部の長沢美津子氏(JFJ会員)と松竹株式会社 メディア事業部プロデューサーの手島麻依子氏から築地市場を記録することになった経緯からメディアに込めた想い、築地市場の魅力などを伺い、日本の食文化、流通、環境等、様々な視点から考える機会としたい。

■記録のきっかけ

●朝日新聞文化くらし報道部の長沢美津子氏
 3年前朝日新聞デジタルの委員に就任し、制作する内容を検討していた。「築地市場移転問題」が注目されていた。築地市場は歴史が長く、複雑な課題も抱えており、記録手法として紙媒体より立体的に記録する必要を感じ、デジタルの持ち味が発揮できると考えた。また、本音を言うと、朝日新聞は築地市場の正門前に立地していることもあり、他のメディアにはやらせたくなかった、という気持ちもあった。

●松竹株式会社メディア事業部の手島麻依子氏
 元々、会社の近くにある築地市場には魅力を感じていたが、入ったことが無く、入りにくい場所だった。思い切って青果市場から歩いてみると、「旬」を感じる場所であることに気付いた。親しくなった青果仲卸の方に、「水産にはどうやって行くの?」と尋ねると、「ここを真っ直ぐだよ」と言われ戸惑ったが、思い切って水産仲卸売り場に侵入した。するとすぐに魅了された。そのころ、監督がある仲卸から動画編集の依頼を受け、築地市場と仕事の関係になった。そこで移転の話なども聞き、映画製作へと進んで行った。

■苦労した点

●朝日新聞文化くらし報道部の長沢美津子氏
 築地市場はメディアでマグロの初値がいくらになった!とか、毎年1月5日の初セリのことが注目され報道されるが、記録したいのはそこではなく日常の生の姿だったので、東京都をはじめ、東卸(東京魚市場卸協同組合)など、多くの市場関係者に協力してもらった。また、動画だけでなくCGや3Dなど様々な視点から全て自社で制作した。
  
●松竹株式会社メディア事業部の手島麻依子氏
 築地市場は東京都中央卸売市場で都の管轄であり、取材の許可を取るのが苦労した。部外者の長期に渡る取材はなかなか許可を取るのが難しく、特にマグロのセリ場は通常の取材も規制されている。それでも、仲卸組合などの協力があり、許可された。また、ノスタルジーでは無く、魚の旬や目利きなども記録したいのでナレーションは極力使わず、出演者である仲卸業者等の話す言葉を中心に構成した。80人以上の仲卸業者等に出演いただき、朝(夜中)からカメラで仕事を追っかけたこともあった。

■内容について

●朝日新聞文化くらし報道部の長沢美津子氏
 築地市場の水産仲卸は、扱う業種により業会が分かれている。例えば、マグロを専門に扱う大物業会、寿司種などは特種物業会、このほか塩干、エビ等12に分類され、約630社が店舗を構えていて、それぞれの店舗を写真付きで紹介している。人気のマグロは種類の紹介や見取り図なども掲載している。そのマグロを含めた寿司ネタも紹介しているほか、築地市場で使われている専門用語の意味なども解説している。また、米国のニュースデザイン協会(SND)が主催し、世界の優れたデジタル報道デザインを表彰する「ベスト・オブ・デジタル・デザイン」の2015年報道特集部門の「シルバー・メダル」(銀賞)に選ばれた。アジアでは唯一の受賞だった。

●松竹株式会社メディア事業部の手島麻依子氏
 美食都市TOKYOを代表する銀座から徒歩15分という立地にあり、世界一のフィッシュマーケットとして独自の文化を育んできた築地市場は、日本国内の料理人だけでなく海外のトップシェフのリスペクトも獲得し、また、観光客も魅了している。しかし、市場内で営まれるその実態はあまり知られていなかった。15年に及ぶ築地市場の研究で知られるハーバード大学の文化人類学者であるテオドル・ベスター教授も「調査を始めた当初は、築地市場がこんなにも複雑で、全体像を把握するのにこれほど時間がかかるとは想像もしなかった」と語っている。映画「TSUKIJI WONDERLAND」では、今まで誰も踏み込むことが出来なかった魚に命をかける仲卸のガチンコ勝負の場にも焦点を当て、誇り、技、意地、生き甲斐、仲間意識…等、築地の住人たちの本音あふれる情熱に満ちた生き様を感じることが出来る作品となっている。インタビューしたのは、仲卸業者約80人のほか、料理人、文化人、評論家、料理研究家、街の魚屋、学校給食業者など総勢150人に及び、様々な視点から築地市場のプロフィールを映し出している。公開は10月1日(土)に築地東劇で先行公開、10月15日(土)全国ロードショー。

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