第13回公開シンポジウム「食の安全の、これから」の報告

食品の安全の機構―その役割と活動の現状

内閣府食品安全委員会委員・和洋女子大学大学院教授 坂本元子氏

 現代社会は、新規農業の開発などにみられる「利便性の追求に伴う危害の増大」、人獣共通感染からヒトへの感染にみられる「新たな危害要因の発生」、検出感度が上昇し、“ゼロ残留”が非現実になることなどによる「分析技術の向上」をはじめ、食品に含まれる危害の多様化・複雑化が進行しています。

 そのため、食品の安全性に対する消費者の不安はかつてないほど大きくなっています。食品添加物に対する不安、遺伝子組み替え食品に対する不安、内分泌かく乱化学物質に対する不安などがその代表です。これらの不安は個人の感情ですから、これを取り除くのは大変むずかしいことです。「安全ですよ」といくら科学的に説明しても、消費者はなかなか安心しません。

 安全を安心に変えるためにはどうしたらよいか、「BSE問題」がきっかけとなり、危機意識の欠如と危機管理体制の欠落、生産者優先、消費者保護軽視の行政、政策決定過程の不透明な行政機構、農林水産省と厚生労働省の連携不足など、従来の行政対応のさまざまな問題点が指摘されるようになりました。

 それらをすべてカバーできるような機構をつくろうということで、食品安全基本法がつくられ、国民の健康保護を最優先に、食品安全行政にリスク分析手法を導入し、食品の安全に関するリスク評価(食品健康影響評価)を関係各省から独立して行う食品安全委員会が設置されました。

 同委員会の役割は以下の3つに集約されます。一つは、食を介して入ってくる可能性のある化学物質や微生物等の要因について、その健康に及ぼす影響のリスクを科学的な知見に基づいて客観的かつ中立公正に評価することです。二つ目は、そのリスク評価の内容等に関して、消費者・食品関連業者など関係者相互間における幅広い情報や意見の交換、すなわちリスクコミュニケーションを意見交換会の開催、ホームページ等を通じて行うことです。そして、三つ目は、緊急時において、政府全体として危害の拡大や再発防止に迅速かつ適切に対処するため、国の内外からの情報により事態を早急に把握し、関係各省への迅速な対応の要請や、国民に理解しやすい情報の提供を行うことです。

 この食品安全委員会の専門調査会には延べ200名の専門委員が、企画、リスクコミュニケーション、緊急時対応、評価の各部門に所属し、活動しています。食品安全委員会は毎週木曜日午後2時から公開で開催されていますので、ぜひみなさんも参加し、疑問があったらその場で問い質していただきたいものです。「食の安全ダイアル」(03-5251-9220)も設置されています。食品の安全を不安なく受け止めていただくために、ぜひ、ジャーナリストをはじめ、すべての人が行動をおこしていただくようお願いいたします。

安心・新鮮をウリにして

JAひたちなか長砂直売所 店長 飛田平一氏

 JAの直売所ということで、消費者は中高年者が多く、安心・新鮮を求めて旬な食品を買いに来られます。生産者の農家の方には、売れ残ったものは翌日には引き取っていただくなど、決まり事は厳しく守っていただくようにしています。

 地元の農家からダイレクトに地域の消費者にお届けするという顔の見える流通は、食品の安全性を考えるうえでは、無農薬野菜などと並んで、やはりこれからも強力な武器になってくれると確信しています。

食品の安全は“経済”抜きには語れない

築地水産仲卸 鈴与専務取締役 生田興克氏

 ホームページでも魚のトレサビリティーを追求していますが、魚の場合は収穫された場所と水揚げされた場所が違っているので、なかなか容易ではありません。

 食の安全に関するシステムがいくらできても、現場では経済が優先されますので、実際には食品を扱う現場の人間の、食の安全に対する認識が高くならないと、そのシステムは絵に描いた餅になってしまいます。

 ジャーナリストは、経済的な面にも配慮したうえで、消費者の認識を高めるような努力をしていただきたいものです。

トレサビリティーを最大限に追求

マルエツ お客さまサービス課課長 岩佐朱美氏

 お客さまは食品の安全性にますます敏感になっています。わが社としては、全社員に、法令順守を徹底させることにまず力を入れています。そのうえで、トレサビリティーを最大限追求するようにしています。

 野菜や果物はもちろんですが、魚や肉についても、これからは、買い物のレシートを見ていただければ、生産履歴、個体認識ができるようトレサビリティーは最大限に追求していかないといけないと、社を上げて取り組むようにしています。

消費者の“食育”にも力を

日本生活協同組合連合会 テストキッチン・表示企画室室長 丹敬二氏

 最近の消費者は、「常温って何度ですか?」「この缶詰の開け方を教えてください」など、これまでは常識といわれるようなことまで聞いてきます。一方では、生産現場の技術進歩はすさまじいものがあります。そのため、生産現場と消費者現場の距離はどんどん大きくなっているような気がします。

 食の安全を考えるうえでは、その距離を埋めるために、消費者に対する「食育」にも力を入れる必要があると考えています。

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