これだけはおさえておきたい「フレイル・サルコペニアの基礎知識」

・講 師:若林秀隆氏 横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科講師(4月から准教授)
     医師。日本リハビリテーション栄養学会理事長
     日本サルコペニア・フレイル学会理事・広報委員会委員長)
・会 場:日比谷図書文化館(千代田区日比谷公園1-4)
・参加者:46名 
・文 責:監物南美

 今、高齢者の低栄養は社会問題となっています。中でも、サルコペニアとフレイル(虚弱)の対策は健康長寿をまっとうするうえで欠かせません。いずれも転倒・骨折などの原因になりますし、疾病や怪我で入院したさいにサルコペニアやフレイルがあると、リハビリをしてもそのまま寝たきりとなるケースが目立ちます。そこで注目されているのが栄養をも重視した「リハ栄養」です。
 栄養ケアがおろそかではリハビリテーションの効果も期待できないとして「リハ栄養」という分野を開拓し、サルコペニア・フレイル対策の重要性の発信にも取り組んできた若林秀隆さんにお話いただきました。

■ 講演の要旨は以下の通りです。
1.リハ栄養が必要な理由
 「リハ栄養」とは、簡単にいうと、「栄養の力を使って生活機能を高める」ことをいいます。スポーツのときに最高のパフォーマンスを引き出すように食事を考えるのがスポーツ栄養ですが、病気やけがなどで生活機能が衰えてリハビリが必要なとき、栄養の力を使ってそのかたのパフォーマンスを発揮するための適切な栄養サポートがリハ栄養です。
 この重要性が浸透し始めたのはじつは最近のことです。たとえば、脳梗塞でリハビリが必要になった患者さん。リハビリをいくらがんばっても筋肉がつかず、どんどんやせほそるのは、急性期病院ではありがちなことでした。ひどい場合にはそのまま死を迎えることすらありました。この背景には、医師が医学部で栄養学を学習する機会がほとんどなく、病気そのものの治療にしか目が行き届かず、リハビリ中にしっかりした食事をとらせなかったことがあります。

2.フレイル対策は食事が重要だが食事だけではむずかしい
 フレイルは端的に言えば「加齢で身体機能を支える恒常性維持機構が低下して、脆弱性が高い状態」。身の回りの動作は一通りできているものの、ちょっとしたきっかけでガタガタと生活機能がくずれ落ちてしまうような状態です。
 フレイルの定義はいくつかの考え方がありますが、Friedが提唱した5項目の基準が使われることが多く、3項目以上該当するとフレイル、1または2項目だけの場合にはフレイルの前段階であるプレフレイルと判断します。
身体的フレイルの指標
 1 体重減少
 2 疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる
 3 身体活動量の低下 
 4 歩行速度の低下:信号が青になったときに歩き始めて青のうちに渡りきれない
 5 筋力低下
 一方、フレイルは身体的な側面だけでは語れません。認知症ではないが障害が進んでいる状態の認知的フレイル、外出機会がない社会的フレイルなどもあります。社会的フレイルから始まって、身体的フレイルと認知的フレイルが進むという関連性もあります。したがって、フレイルの予防のためには、外出して家族以外の人と交流するなどといったことも大切です。医療における予防対策では運動と薬の見直しが第一ですが、多面的なフレイル予防のための食事に関する知見も少しずつ出始めてはいます。

3.サルコペニア対策には攻めの栄養管理がたいせつ
 「サルコ」は筋肉、「ペニア」は「減る」の意味ですが、現在ではサルコペニアは「加齢、活動、栄養、疾患による筋肉量・筋力・身体機能の低下」とされています。高齢になるほど割合が増え、85歳以上の2人に1人がサルコペニアとされています。最近では、寝たきりや飲み込み困難、呼吸関連の障害もサルコペニアに起因することが認められてきました。
 サルコペニアに関しては2017年に診療ガイドライン(http://www.ncgg.go.jp/cgss/news/20180117.html)が作られましたが、おもに運動(筋トレ)と栄養で治療も予防もできます。栄養は、「攻めの栄養管理」が肝要です。筋肉をつけるには、消費エネルギー分を補うだけでは足りず、個々の状態を見きわめ、筋トレをしたうえで摂取エネルギーを上乗せします。
 サルコペニアは入院をきっかけに起こることが多々あります。1日寝て過ごすと筋肉は0.5~1%落ちるからです。また、集中治療室に入るような重症患者は1日1kgほど筋肉が減ることもあります。冒頭でお話したように急性期病院では疾患を治すことしか目がいかず、安静禁食の指示が出がちです。本当は動けるのに動かさせてもらえず、食べられるのに食べさせてもらえず、筋肉や筋力が落ちてサルコペニアに陥るのです。このような「医原性サルコペニア」の対策は、入院したら入院当日から筋肉が落ちないようにリハビリを始めること、そして攻めの栄養管理をすることにつきます。

 リハと栄養は切り離せません。昨年の診療報酬改定で、「管理栄養士が病棟にいることが望ましい」という文言が入ったので、今後は「リハ栄養」対応も広がっていくことと思われます。日本リハビリテーション栄養学会でもそのような働きかけを試みています。

 講演時のスライドは下記でご覧いただけます。

これだけはおさえておきたい「フレイル・サルコペニアの基礎知識」資料 

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