料理書に100字レシピが必要になるわけ

川津幸子(エディター・料理研究家)

 家庭料理に欠かせない2つの要素は「簡単」と「おいしい」だと思います。書店へ行くと「簡単でおいしい」を謳った家庭料理書がたくさん並んでいます。でも、作ってみると、「この両方を兼ね備えた料理というのは、そうたくさんはない」ということがよくわかります。
 私は「簡単」ということを端的に表す手段として「レシピを100字以内で書く」ということを思いつきました。これは実際にやってみると並大抵のことではありません。ときどき「作り方が100字以内で書いてある」という本も見かけますが、その多くは「材料表の文字数」は100字の中に入っていません。私の場合は「材料表込みで100字以内」ですから、本当に大変です。
 さらに、作り方が簡単でありさえすればいいというのではなく、「食べてみておいしくなければ料理ではない」というのが、私の基本的な考えです。はじめのうちは、本当は手間ヒマかかる料理を、簡単に見せかけるために「作る手順を手抜きする」という方法も試してみたのですが、その方法ではおいしい料理ができないことが多かったのです。
 最終的には、既存の料理ではなく、「簡単に作れておいしい、まったく新しい料理」を考えなければダメだというところにたどりつきました。そういう料理を思いつくと、本当に楽しくなり、できるだけ多くの人に伝えたくなります。
 「料理を一度も作ったことのない人にもおいしくできる料理」をたくさん紹介し、料理好きの若い人をたくさん増やしたい、という思いで、100字レシピを書いています。21世紀には、20世紀までとは違った「スタンダード料理」ができることでしょう。今私たちが作っている「100字レシピ」の中のいくつかが、21世紀の新しいスタンダード料理として残ることが、私たちの願いです。
 そんな世界に、ぜひ皆さんも参加してください。お待ちしています。

(まとめ:佐藤達夫)
2001/03/20 第11回JFJ公開シンポジウム 21世紀の「食」の仕事より